森の熱がしいたけを育てる——木質バイオマスの仕組み
「しもかわしいたけ」を陰から支えているのが、木質バイオマスボイラーによる熱供給です。少し聞きなれない言葉ですが、仕組みはシンプルで、下川町ならではの工夫が詰まっています。なぜ厳冬の北海道で一年中しいたけが穫れるのか——その答えが、この熱の仕組みにあります。
森の木が、ハウスの暖かさに変わるまで
下川町では、森林整備で出る間伐材や製材所の端材など、これまで使い道の少なかった木材を「木質チップ」に加工します。
このチップを燃料に、一の橋地区のバイオマスボイラーで燃焼させて温水をつくります。温水は地区内の配管を通って、しいたけ栽培ハウスや町営住宅、福祉施設へ届けられます。つまりこの熱は、しいたけだけでなく、地区に暮らす人たちの生活そのものも暖めているということです。ひとつのボイラーが、産業と暮らしの両方を支えている。外がどれほど寒くても、ハウスの中は常に快適に保たれ、しいたけはぬくぬくと育つことができます。
森を守ることが、しいたけを育てることに
この仕組みのおもしろいところは、森を健康に保つ作業が、そのままエネルギーづくりにつながっている点です。
間伐は、木が混みあった森に光と風を入れ、残る木を健やかに育てるために欠かせない手入れです。ただ、そこで出る木材は使い道が乏しく、コストばかりかかる「やっかいもの」になりがちでした。下川町では、その間伐材が燃料になり、その熱でしいたけが育ち、菌床にも森から生まれたおが粉が使われる——森と暮らしと食が、ひとつにつながっています。手入れすればするほど、町に役立つものが生まれる構造です。
ひとつの作業が、森の健康・エネルギー・食べ物・雇用と、いくつもの役割を同時に果たしている。この重なり方こそが、下川町の取り組みの核にあります。
化石燃料に頼らず、地域の森から生まれる熱で育てているため、CO₂排出を抑えた環境配慮型の農産物でもあります。木は燃やすと二酸化炭素を出しますが、その分はまた森が育つときに吸収する。地域の森を手入れしながら使うかぎり、収支がぐるりと閉じる——化石燃料を燃やすのとは、ここが大きく違います。通年での温度管理ができるので、365日休まず新鮮なしいたけを出荷できることも、この仕組みがあってこそです。
寒冷地だからこそ、輝く仕組み
冬の厳しい下川町では、ハウスを暖め続けるために多くのエネルギーが必要です。これを灯油などの化石燃料で賄えば、コストも環境負荷も大きくなってしまいます。燃料を町の外から買えば、そのお金もそのまま外へ出ていきます。
地域の森から生まれる燃料を使うことで、コストを地域内で循環させ、環境への負担も抑える。森から生まれた熱とおが粉が、しいたけを育て、その収益がまた森を手入れする力になる——小さな円が、町のなかで回り続けています。寒さが厳しい土地ほど、外から燃料を買う負担は重くなります。その不利を、地域の資源で逆手に取った仕組みともいえます。
「森の熱で、しいたけを育てる」。シンプルだけれど、寒冷地・下川町だからこそ実現できた取り組みです。この仕組みは国内外からも注目され、視察に訪れる人も少なくありません。夏も冬も変わらず届くひと粒の向こうには、こうした森のめぐりがあります。ひと箱のしいたけを選ぶことは、その小さな円を、少しだけ大きく回すことにもつながっています。
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